米国の投資情報サイトが、注目すべき製造業の企業として5社をリストアップしました。半導体からEMS、ビルテクノロジーまで、これらの企業の顔ぶれは、現代の製造業が直面する課題と、今後の事業戦略の方向性を考える上で示唆に富んでいます。
注目される5社の概要と背景
先日、米国の投資情報サイト「MarketBeat」が、投資家の視点から有望な製造業の株式として5つの企業を挙げました。投資家向けの選定ではありますが、その顔ぶれはグローバルな製造業の大きな潮流を反映しており、我々日本のものづくりに携わる者にとっても示唆深いものがあります。以下に、その5社とその事業内容を簡潔にまとめます。
- Taiwan Semiconductor Manufacturing (TSMC): 台湾に本拠を置く、世界最大の半導体受託製造(ファウンドリ)企業です。自社では設計を行わず、他社からの委託を受けて半導体の製造に特化する水平分業モデルの中核を担っています。最先端の微細化技術で他を圧倒しており、日本の熊本にも大規模な工場を建設していることは周知の事実です。
- Applied Materials (アプライド マテリアルズ): 米国に本社を置く、世界最大級の半導体製造装置メーカーです。半導体ウェハーに回路を形成するための成膜、エッチング、検査など、多岐にわたる工程の装置を手掛けており、半導体技術の進化を根底から支える存在です。
- Johnson Controls International (ジョンソンコントロールズ): ビルの空調(HVAC)、制御システム、セキュリティ、エネルギー管理ソリューションなどを提供するグローバル企業です。工場の省エネルギー化やスマートビルディングといった、サステナビリティやDX(デジタルトランスフォーメーション)に関連する分野で強みを持っています。
- Flex (フレックス): シンガポールに本社を置く、電子機器の設計・製造受託サービス(EMS)の巨大企業です。様々な業界の製品について、設計から製造、物流までを一貫して請け負うことで、企業の柔軟な生産体制を支えています。
- Jabil (ジェイビル): Flexと同様、米国に本社を置く世界有数のEMS企業です。ヘルスケア、自動車、クラウド、5Gといった成長分野に注力し、複雑なサプライチェーン管理能力を武器にグローバルな生産ネットワークを構築しています。
これらの企業から読み取れる製造業の潮流
この5社には、いくつかの共通した傾向が見られます。これらは、現代の製造業における重要なキーワードと言えるでしょう。
1. 半導体エコシステムの圧倒的な重要性
5社のうち2社(TSMC、Applied Materials)が半導体関連企業であることは象徴的です。自動車、産業機械、家電製品から社会インフラに至るまで、あらゆる製品の頭脳となる半導体は、もはや一電子部品ではなく、国家の産業競争力を左右する戦略物資となっています。その製造を担うファウンドリと、それを支える製造装置メーカーが注目されるのは、この分野が技術革新とサプライチェーンの要衝であることを示しています。
2. グローバルな水平分業の深化と専門特化
TSMCやEMS企業(Flex, Jabil)の存在は、設計、開発、製造、物流といった工程がグローバルに分業され、各々が専門性を高めることで効率化を図る流れが定着していることを示しています。かつて日本の製造業が得意とした、すべてを自社で抱える垂直統合モデルとは異なるアプローチです。いかにしてグローバルな分業体制の中で自社のコア技術を活かし、競争優位を築くかが問われています。
3. サステナビリティとDXの融合
Johnson Controlsが選ばれている点は、単にモノを作るだけでなく、エネルギー効率の改善や運用データの活用といった「コト」の価値が重視されていることを示唆します。工場のカーボンニュートラル対応や省エネ、生産設備の予知保全などは、日本の製造現場にとっても喫緊の課題です。製品そのものだけでなく、製品が使われる環境や運用段階での付加価値提供が、企業の成長を左右する時代になっています。
4. 複雑なサプライチェーンの管理能力
FlexやJabilのようなEMS企業は、世界中から数万点の部品を調達し、多様な製品を組み立て、グローバル市場に供給する高度なサプライチェーン管理能力が競争力の源泉です。地政学リスクや自然災害など、サプライチェーンの寸断が経営に直結する昨今、こうした変化に柔軟かつ迅速に対応できる強靭な供給網をいかに構築するかは、すべての製造業にとっての共通課題と言えるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回の5社の選定から、日本の製造業が今後の事業戦略を考える上で、以下の点を改めて認識する必要があると考えられます。
自社の強みと立ち位置の再定義: グローバルな水平分業が進む中で、自社はどの工程、どの技術領域で価値を発揮するのかを明確にすることが不可欠です。すべての工程を自社で抱えるのではなく、外部の専門企業(EMSなど)との連携も視野に入れ、最も競争力を発揮できる領域に経営資源を集中させることが求められます。
半導体サプライチェーンへの意識: 半導体はもはや専門分野ではなく、すべての製造業に関わる基盤技術です。自社の製品や生産設備がどのような半導体を使用しているか、その供給リスクはどうかを把握し、安定調達に向けた戦略を立てる必要があります。また、半導体関連の部材や装置で世界的なシェアを持つ日本企業にとっては、この潮流は大きな事業機会となり得ます。
「作る」ことの先にある価値創造: 製品のライフサイクル全体を見渡し、省エネ性能の向上や、稼働データの分析による保守サービスなど、顧客の課題解決に貢献する付加価値を追求することが重要です。これは、工場の運営においても同様で、生産性向上だけでなく、環境負荷低減や働きがいの向上といった多角的な視点での改善活動が求められます。
強靭なサプライチェーンの再構築: サプライヤーの多元化や生産拠点の見直し、在庫管理の最適化など、サプライチェーンの強靭化は待ったなしの課題です。特定の国や地域に依存するリスクを常に評価し、不測の事態にも事業を継続できる体制を平時から構築しておく必要があります。


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