自動制御分野で世界的に権威のある国際自動制御連盟(IFAC)が、2025年に「インテリジェント製造システム(IMS)」に関するワークショップを開催します。本稿では、この国際会議が持つ意味と、そこで議論されるであろう技術が、我々日本の製造業にどのような示唆を与えるのかを解説します。
IFACとインテリジェント製造システム(IMS)ワークショップとは
国際自動制御連盟(IFAC)は、制御工学やシステム工学に関する理論と応用を推進する、世界で最も権威ある学術団体のひとつです。そのIFACが主催する「インテリジェント製造システム(IMS)ワークショップ」は、製造業の知能化、すなわちスマートファクトリー化に向けた最新の研究成果や技術動向が発表・議論される重要な国際会議です。ここで発表される論文は、査読を経た質の高いものが集まるため、世界の研究開発の最前線を知る上で貴重な情報源となります。
日本の製造業は、長年にわたり自動化技術や制御技術を磨き、高い生産性と品質を実現してきました。その我々にとって、IFACのような国際的な場でどのような技術が議論されているかを把握することは、自社の技術戦略や将来の工場像を構想する上で不可欠と言えるでしょう。
IMS 2025で議論されるであろう主要テーマ
「インテリジェント製造システム」というテーマの下では、多岐にわたる技術が議論されることが予想されます。具体的な論文内容はこれから公開されますが、近年のトレンドから鑑みると、以下のようなテーマが中心となる可能性が高いでしょう。
・AI・機械学習の製造現場への応用:製品の品質検査、設備の予知保全、生産計画の最適化など、これまで熟練者の経験と勘に頼ってきた領域へのAI技術の適用事例や、その精度向上に関する研究が注目されます。
・デジタルツインとサイバーフィジカルシステム(CPS):物理的な工場や生産ラインをデジタルの世界に忠実に再現するデジタルツイン技術は、生産シミュレーションや遠隔監視・操作の高度化に貢献します。物理世界とサイバー世界を緊密に連携させるCPSの概念は、より自律的で柔軟な生産システムを実現するための鍵となります。
・産業用IoT(IIoT)とデータ活用基盤:工場内のあらゆる機器からデータを収集し、リアルタイムで活用するためのIIoTプラットフォームや、膨大なデータを効率的に処理・分析する技術は、データ駆動型の工場運営の根幹をなすものです。
・持続可能な生産システム:省エネルギー化や資源の効率的な利用、カーボンニュートラルの実現といった、環境負荷を低減するための生産技術も重要なテーマです。製造プロセス全体の最適化によるサステナビリティへの貢献が問われます。
学術研究と現場実装の架け橋として
国際学会で発表される内容は、最先端であるがゆえに、すぐさま現場で使える技術ばかりとは限りません。しかし、こうした基礎研究や応用研究の積み重ねが、数年後の実用的なソリューションや製品へと繋がっていきます。例えば、10年前に学会で議論されていたコンセプトが、現在のスマートファクトリーを支えるコア技術となっているケースは少なくありません。
したがって、経営層や工場運営の責任者、技術開発担当者にとっては、現在の課題解決だけでなく、5年後、10年後を見据えた技術の方向性を知る上で、このような学術的な動向を追うことは極めて重要です。自社が次に打つべき手、投資すべき技術領域を見定めるための羅針盤となり得るのです。
日本の製造業への示唆
今回の「IFAC IMS 2025」の開催は、日本の製造業関係者にとって、以下の点で重要な示唆を与えてくれます。
1. 世界の技術標準とトレンドの把握:
製造業の知能化は、グローバルな競争の土俵となっています。世界のトップ研究者たちがどのような課題意識を持ち、どのようなアプローチで解決しようとしているかを知ることは、自社の立ち位置を客観的に評価し、国際競争力を維持・強化する上で不可欠です。
2. 中長期的な研究開発・設備投資計画への活用:
発表される論文の中から、自社の事業や生産現場の課題に関連するテーマを深く掘り下げることで、将来の技術戦略や設備投資計画に具体的な指針を与えることができます。「AI」や「IoT」といった漠然とした言葉ではなく、より具体的な技術要素として理解し、自社のロードマップに落とし込むことが重要です。
3. 次世代を担う技術者の育成:
このような国際会議の論文に触れることは、若手技術者にとって、自身の専門知識を深め、グローバルな視点を養う絶好の機会となります。自社の技術レベルを底上げし、将来のイノベーションを担う人材を育成する観点からも、こうした学術動向を社内で共有し、議論する文化を醸成することが望まれます。
今後、IFACのウェブサイトやScienceDirectなどで具体的な論文が公開された際には、自社の課題解決に繋がるヒントを探すべく、積極的に情報収集を行うことをお勧めします。理論と実践の距離を縮め、現場の知恵と世界の知見を融合させることが、これからの日本の製造業の発展に繋がるものと確信しています。


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