2019年12月、米国オハイオ州において、中小製造業の重要な支援機関であった「製造業拡張パートナーシップ(MEP)」への公的資金が突如停止されるという事態が発生しました。この一件は、公的支援に頼る経営の潜在的なリスクを浮き彫りにするものであり、日本の製造業にとっても他人事とは言えません。
米国オハイオ州で起きた突然の資金停止
元記事によれば、2019年12月5日、米国オハイオ州において、連邦政府および州政府は「製造業拡張パートナーシップ(Manufacturing Extension Partnership, MEP)」への資金提供を停止しました。この措置は、現地の製造業支援の中核を担っていたMAGNETのような組織にとって、まさに青天の霹靂であったと報じられています。公的資金を前提としていた事業計画や雇用に、深刻な影響が及んだことは想像に難くありません。
製造業拡張パートナーシップ(MEP)とは何か
MEPは、米国の製造業、特に中小企業の競争力強化を目的とした、全米に広がる公的支援ネットワークです。各州にセンターが置かれ、新技術の導入支援、生産性向上(リーン生産方式など)、品質管理、サプライチェーンの最適化、人材育成といった、多岐にわたるコンサルティングや実務支援を提供しています。日本の制度で言えば、各地の公設試験研究機関(公設試)や中小企業支援センター、あるいは「ものづくり補助金」のような制度が担う役割を、より包括的に提供する組織と考えると理解しやすいでしょう。現場に寄り添った実践的な支援を通じて、多くの中小製造業の成長を支えてきた重要な存在です。
公的支援に依存する経営のリスク
今回のオハイオ州の事例は、我々日本の製造業関係者にとっても重要な教訓を含んでいます。補助金や助成金といった公的支援は、設備投資や研究開発、人材育成を進める上で非常に有効な手段です。しかし、その原資は国の予算であり、政策の変更、政権交代、財政状況の悪化といった外部要因によって、ある日突然、縮小・停止される可能性があるというリスクを常に内包しています。特に、公的支援を事業計画の根幹に据え、それなくしては事業が成り立たないという状態は、極めて脆弱な経営体質であると言わざるを得ません。外部環境の変化に翻弄され、事業の継続自体が危ぶまれる事態に陥りかねないからです。
経営の要諦は、持続可能性にあります。公的支援は、あくまで自社の成長を加速させるための「ブースター」として活用すべきであり、事業の「エンジン」そのものにすべきではありません。自社の技術力、生産ノウハウ、そしてキャッシュフローによって事業を回していくという、自律的な経営基盤を構築することが何よりも重要となります。
日本の製造業への示唆
この一件から、我々日本の製造業が学ぶべき点を以下に整理します。
1. 公的支援の不確実性を常に認識する
補助金や助成金は、恒久的なものではありません。申請を検討する際には、制度が将来的に変更・終了する可能性を事業リスクの一つとして明確に認識し、経営計画に織り込むべきです。
2. 支援ありきの事業計画を避ける
新規事業や設備投資の計画を立てる際、「補助金が採択されなかった場合」の代替案(プランB)を必ず用意しておくことが肝要です。自己資金や融資だけでも事業が継続できるような、地に足の着いた計画が求められます。
3. 外部環境に左右されない内部能力の強化
最終的に企業の競争力を担保するのは、独自の技術、改善を続ける現場力、強固な品質保証体制といった、自社固有の強みです。公的支援を活用してこれらの内部能力を強化することは有益ですが、支援そのものに依存するのではなく、自社のコアコンピタンスを磨き続けるという本質を見失ってはなりません。
4. 政策動向への注意と情報収集
自社が活用している、あるいは活用を検討している公的支援制度については、その背景にある政策の動向を常に注視することが重要です。業界団体や地域の商工会議所などを通じて情報を収集し、変化の兆候を早期に察知することで、迅速な対応が可能になります。

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