製品ラベルに記載される性能や品質、環境配慮といった「主張(クレイム)」は、顧客の信頼を得る上で極めて重要です。しかし、その表示の根拠を問われた際に、製造現場は明確に回答できるでしょうか。本稿では、製品表示の重要性と、その信頼性を担保するための課題について考察します。
製品表示の重要性の高まり
近年、消費者は製品を選択する際に、価格や基本的な機能だけでなく、その製品が持つ背景や付加価値を重視する傾向が強まっています。例えば、「リサイクル材を30%使用」「従来品に比べ消費電力を20%削減」「特定の化学物質を含まない」といったラベル表示は、購買決定における重要な判断材料となります。これは食品業界に限った話ではなく、自動車部品、電子機器、建設資材など、あらゆる製造業において共通する潮流です。
こうした表示は、企業の技術力や品質、環境・社会に対する姿勢を示すものであり、ブランドイメージの向上や他社との差別化に直結します。しかし、その一方で、表示内容の正当性や客観的な根拠がこれまで以上に厳しく問われる時代にもなっています。海外の食肉業界では、飼育方法や添加物に関する表示の在り方が専門誌のウェビナーで議論されるなど、表示の信頼性に対する関心は世界的に高まっています。
表示の信頼性を担保する上での課題
製品表示の信頼性を確保するためには、製造現場やサプライチェーン全体で取り組むべきいくつかの課題があります。第一に、表示内容を裏付ける客観的なデータの取得と管理です。「性能向上」を謳うのであれば、その比較基準や試験条件、測定データが明確でなければなりません。また、「特定物質不使用」を証明するには、原材料の受け入れから製造、出荷に至るまで、サプライヤーからの保証書や成分分析結果、混入を防ぐための工程管理など、サプライチェーン全体でのトレーサビリティが不可欠です。
特に、景品表示法における優良誤認表示のように、根拠が曖昧なまま優れた製品であるかのような表示を行うことは、法的なリスクはもちろん、長年かけて築き上げた顧客の信頼を一夜にして失うことにも繋がりかねません。昨今では「グリーンウォッシュ(環境配慮を装うこと)」といった言葉も聞かれるように、実態の伴わない表示は、かえって企業の評価を著しく損なう危険性をはらんでいます。
製造現場に求められる地道な取り組み
製品の付加価値をアピールする表示は、マーケティング部門や企画部門が主導することが多いかもしれません。しかし、その表示の信頼性を最終的に担保するのは、日々の生産活動を行う製造現場と、それを支える品質管理や生産技術の仕組みです。
例えば、設計値通りの性能が出ていることを保証するための検査体制、原材料の仕様を確実に管理する購買・受け入れプロセス、製造ロットごとの履歴を追跡できる生産管理システムなど、ものづくりの基本となる活動そのものが、製品表示の信頼性の礎となります。現場で日々記録している生産データや品質データが、自社製品の「主張」を支える何よりの証拠となるのです。表示内容とその根拠について、部門間で密に連携し、全社的な共通認識を持つことが重要です。
日本の製造業への示唆
本件から、我々日本の製造業が実務において留意すべき点を以下に整理します。
1. 製品表示は「品質保証の一部」と認識する
ラベル表示は、単なる販売促進のための文言ではなく、顧客に対する品質の約束です。品質保証体制の中に、表示内容の妥当性を検証し、その根拠を管理する仕組みを明確に組み込む必要があります。
2. データに基づいた証明体制の構築
「なぜそう言えるのか」という問いに対し、常に客観的なデータ(試験成績書、工程能力指数、監査記録など)をもって回答できる準備が不可欠です。曖昧な表現や感覚的な主張は避け、事実に基づいた誠実な情報提供を徹底することが、長期的な信頼に繋がります。
3. サプライチェーン全体での連携強化
自社工程のみならず、上流のサプライヤーから提供される原材料や部品の品質・仕様が、最終製品の表示内容に大きく影響します。サプライヤーに対して、表示に関連する情報の提供を求め、その信頼性を定期的に確認・監査する体制を強化することが求められます。
4. 法規制と社会的要求の変化への追随
製品表示に関する法規制や業界標準、また環境や人権などに関する社会的な要求は常に変化します。これらの動向を継続的に監視し、自社の表示内容が時代遅れになったり、不適切になったりしないよう、定期的な見直しを行うプロセスを確立することが重要です。

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