ソフトウェアサプライチェーン攻撃の新潮流:GitHub Actionsに潜む脅威と製造業の対策

Global製造業コラム

製造業のDXが進む中、ソフトウェアは製品や生産設備の中核を担う重要な要素となっています。しかしその裏側では、開発プロセスそのものを狙った「ソフトウェアサプライチェーン攻撃」が深刻化しており、特に自動化ツールであるGitHub Actionsが悪用される事例が増加しています。本稿では、この新たな脅威の実態と、日本の製造業が取るべき対策について解説します。

物理的な部品からソフトウェア部品へ:サプライチェーンの新たなリスク

製造業におけるサプライチェーン管理は、長年にわたり品質・コスト・納期(QCD)を維持するための生命線でした。特定のサプライヤーからの部品供給が滞れば、生産ライン全体が停止してしまうリスクがあることは、現場の皆様であれば身をもってご存知のことでしょう。近年、このサプライチェーンの考え方がソフトウェア開発の世界にも適用され始めています。現代のソフトウェアは、オープンソースソフトウェア(OSS)やサードパーティ製のライブラリといった「外部から調達する部品」を組み合わせて作られるのが一般的だからです。このソフトウェア部品の連鎖、すなわち「ソフトウェアサプライチェーン」に脆弱性が存在すると、完成した製品やシステム全体が深刻なリスクに晒されることになります。

開発の自動化を担う「GitHub Actions」がなぜ標的にされるのか

近年のソフトウェアサプライチェーン攻撃で特に標的となっているのが、「GitHub Actions」に代表されるCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デプロイメント)ツールです。これは、ソフトウェアのソースコードが変更されるたびに、ビルド、テスト、展開といった一連の作業を自動的に実行してくれる仕組みであり、開発の効率を飛躍的に向上させます。いわば、ソフトウェア開発における自動化された生産ラインのようなものです。攻撃者は、この自動化プロセスに悪意のあるコードを紛れ込ませることを狙っています。もし、このパイプラインの途中で不正な処理が挿入されれば、開発中のソフトウェアにバックドアが仕掛けられたり、クラウドサービスへのアクセスキーといった機密情報が盗み出されたりする可能性があります。多くの開発者が信頼して利用している自動化の仕組みそのものが、攻撃の侵入経路として悪用されているのです。

製造現場への影響:対岸の火事ではないサイバーリスク

「ソフトウェア開発の話は、自社のIT部門の問題だ」と考えるのは早計です。スマートファクトリー化が進む現代の製造現場では、生産設備や検査装置の制御、品質データの管理、サプライヤーとの情報連携など、あらゆる場面でソフトウェアが活用されています。例えば、以下のような事態が想定されます。

  • 生産ラインの停止:工場の生産管理システムやPLC(プログラマブルロジックコントローラ)を制御するソフトウェアに脆弱性が混入し、ラインが予期せぬ停止に追い込まれる。
  • 品質不良・リコール:製品に組み込まれたソフトウェアに悪意のある機能が埋め込まれ、市場に出た後で大規模なリコールに発展する。
  • 機密情報の漏洩:開発プロセスを通じて、製品の設計データや独自の生産技術に関する情報が外部に流出する。

特に、自社で内製している制御システムや検査ツールだけでなく、外部の設備メーカーやシステムインテグレーターから納入されるソフトウェアも、その開発過程で同様のリスクを抱えている可能性があります。物理的な部品の品質をサプライヤーに求めるのと同様に、ソフトウェアについても、その開発プロセスの安全性を確認していく視点が不可欠です。

日本の製造業への示唆

ソフトウェアサプライチェーン攻撃は、もはやIT業界だけの問題ではなく、製造業の事業継続を脅かす経営リスクとして認識する必要があります。この脅威に対し、日本の製造業は以下の点を考慮し、実務レベルでの対策を講じることが求められます。

1. ソフトウェア構成の可視化 (SBOMの活用)
自社の製品や生産システムに、どのようなオープンソースソフトウェアやライブラリが利用されているかを把握することが第一歩です。ソフトウェア部品表(SBOM: Software Bill of Materials)を作成・管理し、脆弱性が発見された際に迅速に影響範囲を特定できる体制を整えることが重要です。

2. 開発プロセスのセキュリティ強化
ソフトウェアを自社開発している場合は、GitHub ActionsのようなCI/CDパイプラインに、脆弱性スキャンや静的コード解析(SAST)といったセキュリティチェックを自動的に組み込むことを検討すべきです。これにより、開発の初期段階で問題を検知し、手戻りを防ぐことができます。

3. サプライヤー管理の高度化
設備やシステムを外部から調達する際には、そのソフトウェアの安全性について、サプライヤーに説明を求めることが有効です。契約要件にセキュリティに関する項目を盛り込むなど、物理的な部品と同様のサプライヤー管理をソフトウェアにも展開していく必要があります。

4. IT部門とOT部門の連携
工場の生産技術や設備管理を担当するOT(Operational Technology)部門と、社内の情報システムを管理するIT部門との連携を密にすることが不可欠です。工場で稼働するシステムのセキュリティリスクについて、両者が共同で評価し、対策を講じる文化を醸成することが、組織全体の防御力を高めることに繋がります。

ソフトウェアは、今後のものづくりにおける価値創出の源泉です。その基盤となる開発プロセスの安全性を確保することは、将来の競争力を維持するための重要な経営課題と言えるでしょう。

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