米国のライフスタイル小売大手アーバンアウトフィッターズ社が、AIを活用したサプライチェーン管理プラットフォームの導入を決定しました。複雑化する世界各国の規制に対応し、コンプライアンスを強化することが目的です。この動きは、グローバルに事業展開する日本の製造業にとっても示唆に富むものです。
背景：複雑化・高度化するグローバルな規制要件
先日、アパレルやライフスタイル雑貨などをグローバルに展開する米URBN（アーバンアウトフィッターズ社）が、Inspectorio社のAI搭載サプライチェーンプラットフォームを導入する、との発表がありました。その目的は、ますます複雑化する世界各国の規制やコンプライアンス要件に対応することにあります。
ご存知の通り、今日のグローバルな事業環境において、製造業が遵守すべき規制は増加の一途をたどっています。製品に含まれる化学物質に関する規制（欧州のREACH規則など）、強制労働や人権侵害をサプライチェーンから排除するためのデューデリジェンス義務、あるいは各国独自の製品安全基準など、その内容は多岐にわたります。これらの規制は国や地域によって異なるだけでなく、頻繁に更新されるため、広範なサプライチェーンを持つ企業が、そのすべてを人力で正確に把握し、管理することは極めて困難な状況となっています。
AIプラットフォームによる課題解決
今回のURBN社の取り組みは、こうした課題に対する一つの解と言えるでしょう。導入されるAIプラットフォームは、世界中の規制情報をデータベース化し、自社のサプライヤーや製品情報と照合することで、コンプライアンス違反のリスクを自動的に検知・可視化する機能を持つものと考えられます。
例えば、ある部品を製造する二次サプライヤーが使用する化学物質が、納品先である欧州の新たな規制に抵触する可能性がある、といったリスクをAIが事前に警告してくれるかもしれません。また、サプライヤーから提出される各種証明書や監査レポートをデジタルで一元管理し、その有効性や規制との整合性をチェックすることで、管理業務の大幅な効率化と精度向上が期待できます。これは、従来のExcelや紙ベースでの属人的な管理から脱却し、より動的で網羅的なリスク管理体制へ移行することを意味します。
日本の製造業への示唆
この事例は、アパレル業界に限った話ではありません。自動車、電子部品、機械、化学製品など、グローバルにサプライチェーンを構築している日本の製造業にとって、重要な示唆を含んでいます。
コンプライアンスは事業継続の根幹に関わる課題
かつてはCSR（企業の社会的責任）の一環と捉えられがちだった環境・人権などに関するコンプライアンスは、今や事業継続を左右する経営の根幹に関わる課題となっています。特に欧米の顧客からは、取引の前提条件として、サプライチェーン全体の透明性や法規制遵守を証明することが厳しく求められる傾向が強まっています。
人力による管理の限界とデジタル化の必要性
膨大かつ常に変動する規制情報を、担当者の努力だけで正確に追跡・管理する体制には限界があります。見落としや解釈の誤りが、多大な損失や信用の失墜に繋がるリスクを内包しています。AIをはじめとするデジタル技術を活用し、管理業務をシステム化・自動化することは、リスクを低減し、担当者がより本質的な業務に集中するためにも有効な手段です。
サプライヤーとの協調体制の再構築
こうしたプラットフォームの導入は、自社だけでは完結しません。サプライヤーから正確な情報をタイムリーに提供してもらう協力体制が不可欠です。これを機に、サプライヤーとの情報共有のあり方を見直し、サプライチェーン全体でコンプライアンス意識を高めていく取り組みが求められます。管理を強化するという側面だけでなく、共にリスクに対応し、持続可能な関係を築くという視点が重要になるでしょう。
グローバル市場での競争が激化する中、サプライチェーンにおけるコンプライアンス遵守は、もはや「守り」の活動ではなく、企業の信頼性と競争力を支える「攻め」の基盤となりつつあります。まずは自社のサプライチェーンにおけるリスクを洗い出し、どこに管理のボトルネックがあるかを特定することから始めてみてはいかがでしょうか。
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