サプライチェーン混乱による損失は年間120億ドル規模に:DP World社調査より

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ドバイに本拠を置く物流大手DP World社の調査によると、サプライチェーンの混乱が世界中の消費財企業に年間120億ドルもの財務的損失をもたらしていることが明らかになりました。地政学的リスクや港湾の混雑などが常態化する中、日本の製造業においてもサプライチェーンの強靭化は喫緊の経営課題と言えるでしょう。

サプライチェーン混乱の常態化とその要因

DP World社が世界の消費財ブランドを対象に実施した調査によれば、サプライチェーンの混乱はもはや一過性の問題ではなく、事業運営における恒常的なリスクとして定着しつつあることが示されました。特に、回答企業の80%が「地政学的な混乱」による影響を受け、86%が「港湾の混雑」、そして87%がその他の様々な要因による打撃を受けていると回答しています。これは、特定の地域紛争やパンデミック後の物流逼迫といった個別の事象だけでなく、複数の要因が複雑に絡み合い、サプライチェーン全体に予測困難な影響を及ぼしている現実を浮き彫りにしています。

コスト増大という直接的な経営インパクト

本調査が指摘する年間120億ドルという損失は、極めて大きな規模です。この金額には、代替輸送ルートの確保に伴う運賃の上昇、緊急の代替部材調達にかかる費用、生産遅延による機会損失、そして不確実性に備えるための過剰在庫コストなどが含まれていると考えられます。日本の製造業においても、近年の急激な円安と資源価格の高騰に加え、こうした物流コストの上昇は、製品の原価構造を直撃する深刻な問題です。特に、海外からの原材料や部品への依存度が高い企業にとって、サプライチェーンの混乱は利益を圧迫する直接的な要因となります。

求められるサプライチェーンの可視化と強靭化

このような状況下で、企業が取り組むべきは、自社のサプライチェーン全体を正確に把握し、潜在的なリスクを事前に特定する「可視化(Visibility)」の強化です。どの地域の、どのサプライヤーからの調達が、どのようなリスクに晒されているのかを常時監視する体制が不可欠となります。その上で、特定の国や地域に依存した調達構造を見直し、供給元を多様化・複線化する(マルチソーシング)、あるいは生産拠点の近くで調達を行う(ニアショアリング)といった、より強靭な(レジリエントな)サプライチェーンの再構築が求められます。これは、単なるコスト削減を目的とした従来の調達戦略からの転換を意味します。

日本の製造業への示唆

今回の調査結果は、グローバルに事業を展開する日本の製造業にとって、決して他人事ではありません。以下に、本調査から得られる実務的な示唆を整理します。

1. リスクの常態化を前提とした事業継続計画(BCP)の見直し:
地政学的リスクや物流の混乱は、今後も継続的に発生する「ニューノーマル」であると認識すべきです。従来のBCPが自然災害などを主眼に置いている場合、地政学リスクや広域の物流障害といった新たな脅威に対応できるよう、シナリオの見直しと具体的な対策の検討が急務です。

2. サプライチェーン全体の可視化とデータ活用:
サプライヤーのそのまた先のサプライヤー(ティア2、ティア3)まで含めたサプライチェーン全体の状況を把握する努力が重要です。ITツールやプラットフォームを活用し、在庫レベル、輸送状況、リードタイムといったデータをリアルタイムに把握し、異常を早期に検知する仕組みの構築が、迅速な意思決定を可能にします。

3. 調達戦略の多様化と在庫の最適化:
「JIT(ジャストインタイム)」に代表される効率性追求の思想は重要ですが、その前提となる安定した物流が揺らいでいる現在、一定のリスク許容度を盛り込んだ戦略が求められます。重要部品については調達先を複線化したり、国内回帰を検討したりするなど、供給途絶リスクを低減する取り組みが不可欠です。それに伴い、安全在庫の考え方や配置についても、サプライチェーン全体で最適化を図る必要があります。

4. 部門横断での情報共有と連携強化:
サプライチェーンのリスク管理は、調達や物流部門だけの課題ではありません。地政学リスクは経営企画が、需要の変動は営業が、生産への影響は製造部門が、それぞれ情報を持ち寄る必要があります。部門間でリアルタイムに情報を共有し、一体となって対応策を講じる組織的な連携体制の構築が、企業のレジリエンスを高める上で極めて重要となるでしょう。

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