米国農務省の「環境再生型農業」推進に見る、サプライチェーン変革の新たな動き

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米国農務省が、土壌の健全性回復と食料サプライチェーンの強靭化を目指す「環境再生型農業(リジェネラティブ農業)」のパイロットプログラムを開始しました。この動きは、農業分野に留まらず、日本の製造業におけるサステナブルなサプライチェーン構築にも重要な示唆を与えています。

米国で始まった「環境再生型農業」への新たな支援

米国農務省(USDA)は、環境再生型農業を推進するための新たなパイロットプログラムを発表しました。このプログラムの主な目的は、農地の土壌の健全性を改善し、気候変動などの外部環境の変化に対する食料供給網、すなわちフードサプライチェーン全体の強靭性を高めることにあります。環境再生型農業とは、土壌を耕さない不耕起栽培や、作物の収穫後も土地を裸にしない被覆作物の活用などを通じて、土壌の有機物や生物多様性を回復させ、二酸化炭素を土中に貯留することを目指す農法です。これまで一部の意識の高い生産者によって行われてきた取り組みを、国が主導して拡大させようという動きです。

「クレジット」による自発的行動の価値化

このプログラムの興味深い点は、生産者が従来の農法から環境再生型農業へ「自発的に転換する行動」そのものを評価し、「クレジット」を付与する仕組みを導入していることです。これは、単なる補助金とは一線を画します。付与されたクレジットが市場で取引されたり、認証として製品の付加価値となったりすることで、環境への配慮が経済的なメリットに直接結びつくことを目指しています。日本の製造現場におけるQCサークル活動やカイゼン提案制度のように、現場からの自発的な改善活動を評価し、インセンティブを与える仕組みと捉えることができるでしょう。規制によって強制するのではなく、自発的な行動を促し、それが市場で価値を持つように設計されている点は、今後のサステナビリティ推進のモデルケースとなり得ます。

サプライチェーン上流の「見える化」とその意味

この取り組みは、製品の源流である「農地」での活動を定量的に評価し、可視化しようとするものです。これは、製造業、特に食品・飲料メーカーにとっては、原材料調達のあり方を大きく変える可能性があります。どの農地で、どのような農法で生産された原料なのかが明確になり、その環境価値がクレジットという形で示されるようになれば、調達基準やサプライヤー選定の重要な指標となるでしょう。また、これは製造業全体で課題となっているスコープ3(サプライチェーン全体での温室効果ガス排出量)の算定や、サステナブル調達を具体的に進める上での一つの解とも言えます。自社の工場内での取り組みだけでなく、サプライチェーンの上流まで遡って環境負荷を把握し、改善していくことが、企業の競争力を左右する時代になりつつあることを示唆しています。

日本の製造業への示唆

今回の米国の動きは、日本の製造業にとっても対岸の火事ではありません。以下に、我々が実務において考慮すべき点を整理します。

1. サプライチェーン全体のサステナビリティが価値となる
自社の製造プロセスにおける環境負荷低減はもちろん重要ですが、今後は原材料の生産段階まで含めたサプライチェーン全体での環境配慮が、製品の付加価値や企業評価に直結します。特に、最終消費者に近い製品を扱う企業ほど、この傾向は強まるでしょう。

2. サプライヤーとの新たな関係構築
サプライヤーに対して、環境負荷の少ない生産方法への転換を一方的に求めるだけでは、協力関係は長続きしません。今回の「クレジット」制度のように、サプライヤーの努力が経済的に報われるようなインセンティブ設計や、技術支援、長期的な取引保証などを含めた、共に価値を創造するパートナーとしての関係構築が不可欠です。

3. 「環境貢献」の定量評価と情報開示
「環境に配慮しています」という定性的なアピールだけでなく、その貢献度を客観的・定量的に評価し、顧客や投資家といったステークホルダーに分かりやすく開示していくことが求められます。今回のクレジットのような仕組みは、そのための具体的な手法の一つです。自社の取り組みの成果をいかに測定し、説得力をもって伝えていくか、その仕組み作りが急務となります。

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