世界的な物流大手であるDHLサプライチェーンが、米テスラ社製の完全電動セミトレーラー(Tesla Semi)の第一陣を導入したと発表しました。この動きは、製造業のサプライチェーン全体における脱炭素化(スコープ3排出量削減)に向けた、具体的かつ重要な一歩として注目されます。
世界大手物流企業の具体的な一歩
DHLサプライチェーンは、カーボンニュートラルな物流網の構築を目指す同社のサステナビリティ戦略の一環として、テスラ製の電動セミトレーラーの導入を開始しました。まずは米国の南カリフォルニアを拠点に、比較的短距離の集荷・配送業務(LTL: Less-than-truckload)から運用を始めるとしています。これは、環境負荷低減に向けた取り組みが、単なる実証実験の段階から、日々の実運用へと移行しつつあることを示す象徴的な出来事と言えるでしょう。
注目されるEVトラックの実用性と課題
テスラセミは、フル積載時(約37トン)で最大500マイル(約800km)の航続距離を持つと公表されています。この性能が実際の運行条件下でどこまで発揮されるか、多くの関係者が注目しています。長距離輸送が基幹となる物流網において、航続距離と充電時間は事業性を左右する極めて重要な要素です。また、大容量のバッテリーを急速充電するための専用インフラ(メガチャージャー)の整備も、普及に向けた大きな課題となります。今回のDHLによる実運用を通じて、これらの実用性に関する具体的なデータが蓄積されていくことが期待されます。
日本の物流網への展開可能性
この動きを日本の製造業の視点で見ると、いくつかの重要な論点が見えてきます。我が国の物流は、ドライバー不足や労働時間規制の強化(いわゆる「2024年問題」)に直面しており、輸送効率の向上が喫緊の課題です。電動トラックは、CO2排出量削減という環境価値に加え、静粛性や振動の少なさからドライバーの労働環境改善に寄与する可能性も秘めています。一方で、日本の道路事情や地形(勾配など)、そして何より充電インフラの不足は、導入における高いハードルとなります。特に、工場の出荷拠点や物流センターにおいて、多数の大型トラックを同時に充電できるだけの電力容量と設備をいかに確保するかは、荷主企業と物流事業者が共同で検討すべき実務的な課題となるでしょう。
日本の製造業への示唆
今回のDHLの事例は、日本の製造業にとっても対岸の火事ではありません。以下に、我々が考慮すべき点を整理します。
1. スコープ3排出量削減への布石
自社の事業活動(スコープ1, 2)だけでなく、サプライチェーン全体の排出量(スコープ3)の削減が、企業の競争力を左右する時代になりつつあります。物流はスコープ3の主要な排出源であり、今後は物流パートナーの脱炭素化への取り組みを評価し、選定していく視点が不可欠になります。
2. 物流戦略の再検討
電動トラックの導入は、単にエンジン車を置き換えるだけでは完結しません。最適な充電タイミングを組み込んだ運行計画の策定、待機電力の管理、積載効率の最大化など、より高度な運行管理が求められます。これは、物流DX(デジタルトランスフォーメーション)と密接に連携する課題であり、荷主としても輸送計画の最適化に協力していく必要があります。
3. 技術動向の継続的な把握
現在、テスラだけでなく、国内外の多くの商用車メーカーが電動トラックの開発を進めています。バッテリー技術の進化や、水素燃料電池トラックといった代替技術も登場しています。自社の製品特性や輸送ルートに適したソリューションを見極めるためにも、性急な判断は避け、技術動向を冷静に、かつ継続的に注視していく姿勢が重要です。
4. 荷主としての協力姿勢
電動トラックが効率的に稼働するためには、充電時間を確保し、計画通りに運行することが前提となります。荷主側における荷待ち時間の削減や、積み降ろし作業の効率化は、これまで以上に物流事業者の運行効率に直結します。サプライチェーン全体の最適化という視点から、物流パートナーとの連携を一層強化していくことが求められるでしょう。

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